最近の話題 2019年9月7日

1.TACCのFronteraが受入検査をパスし,正式稼働を開始

  2019年9月3日のHPC Wireが,6月にTexas Advanced Computing Centerに設置されたFronteraが受入検査をパスしたと報じています。FronteraはLinpackで23.5PFlopsのNFSの科学技術向けのスパコンとしては最大規模のシステムです。

  計算ノードはIntelのXeon 8280で,8008ノードをHDR InfiniBandで接続したシステムとなっています。このところ,SummitやSierra,あるいはPerlmutterのようにx86 CPUに2台,3台とGPUを接続するFatノードのシステムが多いのですが,FronteraはGPUを付けない純粋CPUのシステムです。

  そして,DDNの50+PBのディスクと3PBのFlashからなるストレージを持ち,I/O能力は1.5PB/sとなっています。

  Fronteraは,CoolITの技術を使う水冷となっています。

  FronteraのLinpack性能はそれほど高くはありませんが,GPUが役立たない計算では,Summitは3000個のCPUのシステムで,それに比較すると8000個のCPUを持つFronteraの方が高性能ということになると,TACCのStanzioneディレクタは言います。

  そして,8月にはFronteraは2つのサブシステムを稼働させました。一つはNVIDIAのQuadoro RTX 5000 GPUを持つノードをが360ノードのシステムで,単精度で4PFlopsの性能です。このシステムはNVIDIAが開始する単精度で科学技術計算を行うというプログラムに使用するものです。このシステムはGRCの浸漬液冷を使っています。

  もう一つのサブシステムはIBMのPOWER9 CPUに4台のV100 GPUを使たFatノードのシステムで,112ノードでピーク性能は倍精度で3.5PFlopsのシステムです。

  Fronteraはアクセラレータ無しのシステムですが,サブシステムではGPUを付けたFatノードや浸漬液冷のシステムなど,ユーザがGPUを使ってくれるようになるかを見極めることができるように準備も怠りないシステムになっています。

  なお,最初のサブシステムはMaverick,後の方のサブシステムはLonghornという名前で,テキサスの人たちはWild Westに誇りと郷愁を持ち続けているようです。

2.HuaweiがKirin 990 5Gを発表

  2019年9月6日のThe Inquirerが,HuaweiのTSMCの7nm+EUVを使うKirin 990 5Gの発表を報じています。数日前の,Samsungの8nmプロセスを使うExynos 980の発表にかぶせた発表です。

  Kirin 990は,2.86GHzクロックのA76コアが2個,低クロックのA76が2個,そして低電力のA55が4個という構成はKirin 990の5G無しと同じ構成ですが,低クロックのA76が2.05GHzから2.36GHz,低電力のA55のクロックが1.86GHzkara1.95GHzとクロックが上がっています。

  また,AI処理用のNPUがKirin 990 5G無しではBigコアが1個に対して,Kirin 990 5GではBigコアが2に増えています。

3.Xilinxが世界最大のFPGAを発表

  2019年8月30日のEE Timesが,Xilinxの世界最大のFPGAとなるVirtex Ultrascale+ VU19Pの発表を報じています。VU19Pは16nmプロセスで作られ,ロジックセルを9MとI/Oを2000ピン以上持っています。

  そして,DDR4メモリのバンド幅は最大1.5Tbps,トランシーバのバンド幅は最大4.5Tbpsに上ります。

  VU19Pはこれまで最大のVirtex Ultrascale 440の1.6倍のサイズです。一般販売は2020年の秋となる予定です。

4.CacheQがCPU-FPGAヘテロシステムの開発を容易に

  2019年9月4日のEE Timesが,CacheQのCPU-FPGAのヘテロシステムの開発システムについて報じています。

  通常は,このようなシステムはCPUで動く部分とFPGAで動く部分に分けて開発し,FPGA側の開発はハードエンジニアが担当するということになり,なかなか大変です。

  これに対して,CacheQの開発システムは,CやC++で記述したコードをコンパイラで仮想マシンに変換し,仮想マシンを最適化して,CPU,FPGAのどちらのプロセサで動かすかのパーティションを行い,分別してコード生成を行ってくれます。

  従って,ハードウェアの知識がないソフトエンジニアでもCPU-FPGAのヘテロなシステムが開発できるようになるとのことです。

  CacheQを創業したCEOのClay Johnson氏とCTOのDave Benett氏はXilinxで16年働いたFPGAのベテランだそうです。

5.InSilico MedicineがAIを使って21日で有望な治療薬候補を発見

  2019年9月2日発行のNature Biotechnology 37に,Insilico MedicineのAlex Zhavoronkov氏等の,Deep LearningのGANとReinforcement Learningを組み合わせたGenerative Tensorial Reinforcement Learning(GENTRL) という手法を考案し,嚢胞性繊維症などの治療に効く6種のDDR1 Kinase inhibitorを21日間の計算で発見したという論文が掲載されました。

  これらの物質は,今までに知られていたものとは効き方の原理が異なるのだそうです。そして,4種の候補物質は試験管で効果が確かめられたレベルですが,2種は細胞レベルで効果が確かめられ,1種の物質はマウスを使ったテストで効果が確かめられたとのことです。

  創薬は,大量の候補物質の中から試験管レベルで効くものを見付け,細胞レベル,マウスでの実験などで候補を絞り込んで行き,最後は,人間での治験で薬として使えるようになるわけですが,そのプロセスの前半のところをディープラーニングで大幅に効率化できるという可能性を実証した初めての論文です。

  

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