最近の話題 2020年1月25日

1.拙著「プロセッサを支える技術」がGoogleの寄贈図書に選出

  2020年1月13日のGoogle Japanのブログが,次世代のコンピューティングやプログラミングを担う世代を啓発するため,Googleのエンジニアが厳選したコンピュータ関係の10冊の本を選定し,この10冊をひとまとめにして全国150校(当初の発表では75校であったが,その後,150校に倍増された)の中学,高校に寄贈するというパイロットプロジェクトを行うことを発表しました。

  そして,その10冊のなかに私の書いた「プロセッサを支える技術」(技術評論社)が入っています。中学,高校生では内容が難しいかと思いますが,学校の図書室に1冊ですから,一人くらいは理解してくれる人が居るのではないかと期待しています。

  コンピューティング関係の書籍は膨大な数が書かれており,本屋の書棚でも大きな面積を占めていますが,その中で「プロセッサを支える技術」が選ばれたことは大変名誉なことで,非常に嬉しく思っております。

  なお,応募の期間は2019年12月12日~2020年1月21日となっておりますので,残念ながら,最近の話題が公開されるのは締め切り後ということになります。しかし,パイロットプロジェクトということですので,このプロジェクト(寄贈する書籍は変わると思いますが)が継続されることを期待しています。

2.GroqのAIアクセラレータをNimbixがクラウドで提供開始

  2020年1月21日のEE Timesが,GroqのTensor Streaming ProcessorがNimbixのクラウドで提供が開始され,GroqのTSPはクラウド経由で提供される2番目のAIアクセラレータとなったと報じています。なお,最初にクラウドで使えるようになったのはGraphcoreのアクセラレータで,MicrosoftのAzureで使用可能になっています。

   GroqのTSPは1000TOPSの演算性能を持ち,ResNer50 v2の推論を毎秒21,700回実行できるとのことです。

 GroqのTSPはデータフロータイプの処理をしているようですが,データの移動の経路やタイミングはコンパイラが決めており,データの到着タイミングの違いなどで,性能が変わるということはないそうです。

  決定論的に動くのは使いやすいのですが,大規模なネットワークの場合は,グローバルには非同期通信の方が性能が高いのではないかという感じがします。

  NimbixのクラウドでのTSPの利用料金などについては,この記事には書かれていません。

3.Kneronが第2世代のAIアクセラレータ製品開発に$40Mを調達

  2020年1月23日のEE Timesが,KneronというエッジAIのスタートアップの記事を載せています。Kneronはサンディエゴと台北にオフィスを持ち,2019年5月にKL520というアクセラレータのアーキテクチャとチップを販売を開始しています。今回,KL720という第二世代のチップを開発するため,A2ラウンドのファンディングで$40Mを調達したとのことです。

  KL520は0.5Wの電力で,0.3TOPSの性能でResNetやLSTNを実行できるといいます。演算性能だけを聞くと大したことは無いのですが,他社のアクセラレータは実効性能はピーク演算性能の30%程度しか出ないのですが,KL520はリコンフィギャーすることで,ピークの90%以上の性能が出せるとのことです。エッジ用で低電力で動作することが重要ですから,ピーク性能に対する実効性能が高いことは重要です。

  既にKneronには,セキュリティーカメラ,スマートドアベル/ドアビューワーなどにKL520を使う顧客が何社も付いているとのことです。

  そして,第二世代のKL720のサンプル提供は今年の夏ごろの予定とのことです。

4.EE TimesのTSMCとSamsungの7/8nmプロセスの解説記事

  2020年1月22日のEE Timesが,TSMCとSamsungの公称7nm,8nmのプロセスの違いの解説記事を掲載しています。このような記事は,PC Watchの後藤さんが折に触れて掲載して居られるので,そちらを見て戴けば英語を読まなくても日本語で読めるのですが,それでは当サイトの存在意義が殆どないので,EE Timesの英語の記事を紹介します。

  EE Timesの記事では,最初の表で,TSMCはN7,N7P,N7+という3種類の公称7nmプロセスを持ち,Samsungは8LPP,7LPPという2種の公称7/8nmプロセスがあり,それぞれのプロセスで作られている主要な製品を上げています。

  QualcommのSnapdragonはTSMCの製造ですが,855はN7プロセス,865はN7Pプロセスで作られていると書かれています。Huaweiに使われているHiSiliconのKirinプロセサは990はN7,990 5GはN7+プロセスとなっています。

  Samsungは自社のスマホSoCのExynos 9820は8LPP,Exynos 9825は7LPPとなっています。

  半導体のプロセスの世代が変わると,全てが10nmから7nmと比例縮小できるわけではなく,露光,エッチングなどの技術的限界があり,その全ての制約をクリアできる範囲での実現を決めることになります。しかし,それは一方通行ではなく,ここの寸法をもう少し小さくできないか,その代わり,この制約はもう少し妥協できるなどのチップ設計とファブの間で厳しいやり取りがあって,レイアウトルールが決められています。

  これでチップの大きさが決まり,消費電力や商品の価値が決まるのですから非常に重要な会議です。

5.IntelのCascade Lakeチップが無い

  2020年1月20日のThe Registerが,HPEがIntelのCascade Lake CPUが品薄で入荷に時間が掛るので,顧客にSkylakeを勧めていると報じています。

  SkylakeもCascade LakeもIntelの14nmプロセスを使うCPUチップですが,Skylakeは2017年の製品であるのに対して,Cascade Lakeは2019年の製品で,2年分の,色々な改良が入っています。

  HPやDellなどのサーバの売り上げは,前年比11.6%減で落ち込んでいるし,中国の市場はもっと冷え込んでいるので,CPUチップは,余っていても良さそうですが,実はAmazon,Google, Microsoft, FacebookといったHyperscalerが飲み込んでしまっているのだそうです。

  おなじ14nmのプロセスで作っても,一番高く売れるのはハイエンドのサーバー用Cascade Lake,その次がHPやDellなどの主力製品のサーバ用のXeon CPU,その次がデスクトップCPUやモバイル用CPUです。当然ですが,Intelは一番儲かるCascade Lakeを作り,それをハイパースケーラ―が高い値段で買ってしまい,HPEやDellにはCPUが入荷しないという状態になっているわけです。

  そのあおりで,HPやDellなどのミドルからローエンドサーバー用のCascade Lakeが入らず,顧客に2年前のSkylakeを勧めるという状況に追い込まれているようです。

  そして,PCやモバイル用の高性能CPUの供給はさらに厳しいようです。ただし,モバイル用は最新の製品はすでに10nmにシフトしているので,影響が少ないのかもしれません。 


  


  

  

inserted by FC2 system