最近の話題 2020年3月7日

1.米国のEl CapitanスパコンはAMDのCPU,GPUを使いピーク性能2EFlops越え

  2020年3月4日のHPC Wireが,2023年に稼働を開始する米国のフラグシップスパコンであるEl Capitanはピーク演算性能は2ExaFlops以上で,世界で最も高性能のスパコンになると報じています。

  CPUはAMDのGenoa Epycを使い,これに4個のRadeon Instinct GPUを接続したノードを使います。ピーク性能は,以前,発表された1.5EFlopsを超えて2ExaFlopsに達するとのことです。消費電力は30-40MWで,HPEのSVPでCTOのSteve Scott氏は30MWに近いほうの数字と述べています。

  米国の3台のエクサスパコンは,システムはHPE/CrayのShastaスパコンで,CPU,GPUはAuroraはIntel,El CapitanとFrontierはAMDということになりました。NVIDIAとIBMはエクサ機には出番が無くなりました。

  なお,日本の富岳のピーク性能は発表されていませんが,予算を考慮すると0.5EFlops程度と思われ,米国のエクサ機とちょっと規模が異なることになると思われます。

  CPUはAMDのGenoa Epycで5nmプロセスが使われるとのことです。CPUはZen4コアを使います。アクセラレータのGPUもAMDのRadeon Instinct GPUで,1個のCPUに4個のGPUが接続されます。これらのCPUとGPUをコヒーレント接続を行える第3世代のInfinity Fabricで接続します。と言ってもこれはノード内のCPUとGPUの接続で,ノード間はCrayのSlingshotが使われると考えられます。

  また,ストレージはHPEのClusterStor E1000を使います。

  El Capitanのお値段は$600Mとのことです。El CapitanはLawrence Livermore国立研究所に設置される予定です。

  なお,El CapitanはYosemite国立公園にある巨大な岩壁の名前から取られています。

2.GTC 2020はオンライン開催に変更

  2020年3月2日にNVIDIAは,新型コロナウイルスの感染リスクをさけるため,3月22日から米国のサンノゼのMcEneryコンベンションセンターで開催予定のGPU Technology Conferenceをオンライン開催に変更すると発表しました。

  Jensen Huang CEO の基調講演はWebで流されることになります。コンファレンスでの発表者には,論文を提出するように依頼が出されており,これを見てチャットなどで質疑を行うことも考えられているようです。

  そして,出席者が既に払い込んだ参加費は返金されます。

  この他にも多くのコンファレンスが中止やオンライン開催に変更されており,GoogleのClod NextやGoogleI/OやHPのRe:Inventなども今年は中止のようです。

  もし感染が起こったら責任の取りようがなく,大きなイメージダウンですから,誰もリスクを冒して開催しないのではないかと思われます。

3.IntelをChipzzillaと呼ぶのを変えるべきか

  2020年3月2日のThe RegisterがIntelをChipzillaと呼ぶのを変えるべきかと書いています。The Registerは圧倒的なCPUチップのシェアを持つIntelをチップ界のゴジラという意味でChipzillaと呼んできました。

  しかし,IntelのCPUチップ供給の滞りとAMDとの競争の劣勢から,少なくとも西ヨーロッパ市場のデータではIntelのCPU市場の支配力が弱まっており,Chipzillaの呼称は考え直す必要があるのではないかと書いています。

  Context社のデータでは,2019年4QのIntelの出荷は75,766個で,前年同期は89,191個であったのと比べると15%の減少です。これに伴い市場シェアは98.4%から79.8%に低下しています。

  これに対して,tech wholesalersのデータは,AMDのサーバーCPUの販売は19,123個で,2018年4Qには1,405であったのが10倍以上となっており,AMDのシェアは1.6%かた20.2%に跳ね上がっているとのことです。

  今週の最初の話題のように,2023年には世界一となるEl CapitanスパコンもAMDのCPUとGPUが使われるというように,技術的にもAMDの評価が高まっています。

4.IntelのCFOが技術ロードマップを説明

  2020年3月5日のHPC Wireが,Morgan StanleyのTMTアナリストコンファレンスでの,IntelのGeorge Davis CFOのロードマップの説明を報じています。

  それによると,Intelの10nmプロセスの歩留まりは着実に改善しており,7nmプロセスの開発にも着手している。2021年の末にはより良い性能を示すことができる筈である。

  半導体プロセスのリーダーシップを取り戻すために,10nmと7nmと5nmプロセスの開発のオーバーラップを加速する必要がある。と述べています。

  Intelは2021年にArgonne国立研究所にExaScaleのAuroraスパコンを納入する契約を抱えています。このシステムにはIntelの10nm++プロセスを使うSapphire Rapids CPUと7nmプロセスを使うXe GPUを使うことになっており,これが遅延なく実行できるかがプロセス開発の最初の進捗状況を測る目安になりそうです。

5.Ampereが80コアのarmサーバCPU Altraを発表

  2020年3月3日のThe Registerが,元IntelのCEOであったRene James氏が率いるAmpereが,ハイパースケーラのサーバCPU用のarmサーバチップを発表したと報じています。


  Altraと呼ぶこのCPUはTSMCの7nmプロセスで作られ,80個のN1プロセサコアを集積しています。このチップはOpen Compute Global Summitで発表する筈だったのですが,コロナウイルスの感染懸念でコンファレンスが中止になり,プレスリリースになってしまいました。

  N1コアはarmの設計で,各コアは64KB/64KBの1次キャッシュと1MBのL2キャッシュを持ち,32MBの共用のL3キャッシュを持っています。ターボモードでのクロックは3GHzとなっています。

  スレッドの干渉で性能がばらつくのを避けるためSMTは採用していないとのことで,スループットよりレーテンシ重視の設計になっています。

  メモリはDDR4-3200を8チャネル接続でき,200GB/sのバンド幅と4TBのメモリを接続できます。IOは一つのCPUからPCIe4.0が128レーン出ています。2ソケットのシステムではPCIeは192レーンで,CCIXを4チャネル持つことができます。消費電力は210Wとなっています。

  Ampereは7nmプロセスを使うMystiqueを2021年に出すことを予定しています。

6. イスラエルのAIチップ開発のスタートアップのHailoが$60Mを調達

  2020年3月5日のEE Timesが,AIチップを開発しているイスラエルのHailoがシリーズBファンディングで$60Mを調達したと報じています。これでHailoの調達額は合計$88Mとなっています。スイスの電力,重工業の大手のABBや日本のNECなどが出資者しているとのことです。

  2017年2月の創立ですから,3年ほどで$88Mを集めており,出資者の期待は高いようです。

  HailoはHailo-8というチップを完成しており,今回の$60MはHailo-8チップの商品化やソフトウェアの開発に使うとのことです。Hailo-8のピーク演算性能は26TOPSで,電力効率は2.8TOPS/Wとなっています。

  Hailo-8はメモリやコントロール,計算ブロックが分散されて配置されており,これらを使ってソフトウェアでニューラルネットを作るというアーキテクチャのチップで,演算器の利用率はソ府とウェアに寄りますが,GPUやGoogleのTPUよりも高くできそうで,電力効率も高く出来そうです。



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