最近の話題 2020年5月30日

1.ISC 2020 Digitalは参加費無料

  2020年5月29日にISC Groupは,6月22日から6月25日に掛けて開催されるISC 2020 Digitalの参加費は無料にすると発表しました。

  ディジタル開催でも,ISCグループの従業員の給料やWeb開催のサーバの使用料などのお金はかかると思いますが,参加費無料となると,持ち出しになってしまいます。

  ディジタル開催ですが,スパコンランキングのTop500の発表はLive Streamとなっています。また,Student Cluster Competitionはリモートログインのディジタル開催ですが,表彰はLive Streamです。

  各社が発表するVendor ShowdownはやExhibitor Forumはプレレコードで行われます。研究論文の発表もプレレコードです。24日の恒例のThomas Sterling教授の基調講演もプレレコードですが,例年通り行われます。

  今回,特別なのはIntel HPC Specialというイベントが設けられていることで,ここで,Aurora スパコンが発表されるのではないかと思われます。

  なお,6月25日のWorkshopは開始時間が書かれていませんが,それ以外の大部分はCESTで午後4時からの開催となっています。日本より7時間遅れですから,JSTでは午後11時からの開催ということになります。例年サマリーレポートは発行されるのですが,今年は少なくともPre Recordのセッションは,後からでも見られるようにしてくれるとありがたいですね。

2.MicrosoftとOpenAIが巨大なAIスパコンを建設

  2020年5月20日のTechcrunchが,MicrosoftとOpenAIがチームを組んで,$1Bを掛けて巨大なAIスパコンを建設すると報じています。

  OpenAIは巨大なAIスパコンを使ってArtificial General Intelligence(AGI)の建設を目指しています。今のAIシステムは画像認識やスピーチ認識,あるいは自然言語理解にしても,ごく狭い範囲の知識に限られています。これが範囲が広がり,人間が受け取っている全ての情報が同時に扱えるようになれば,いわゆる,常識のようなものをAIシステムが備えるようになるという目論見です。

  しかし,大きなAIスパコンを作ってもそんなことはできないという学者も多く,どちらが正しいのかは,まだまだ,分かりません。

  OpenAIとMicrosoftのチームが建設するスパコンは,285,000コアのCPUと10,000 GPUからなるシステムで,400Gbit/sのネットワークでサーバ間を接続するとのことです。このスパコンはAzureに接続されますが,OpenAI専用で他のユーザは使えないシステムになるとのことです。

3.armがA78,G78,N78と高性能のCortex X1を発表

  2020年5月26日のThe Registerが,armの新製品の発表を報じています。

  現世代のA77などの次の世代となるCortex-A78 CPU,Mali-G78 GPU,Ethos-N78 NPUと,Cortex-AのPower,Performance,Areaの枠を超えるCortex-X1 CPUを発表しました。

  標準ロードマップより高性能のX1を発表したのは,AppleのAシリーズプロセサに負けないCPUコアが欲しいというユーザ要求に答えるためと思われます。

  整数プログラムの性能はCortex-A77を1として,A78は1.07,X1は1.3となっています。そして,マシンラーニングではA78はA77と同じですが,X1は2.0となっています。使い方はA78 4コア,A55 4コアのbig-LITTLE構成からA78 1個をX1と交換すれば整数プログラムのピーク性能は1.07倍から1.3倍に改善するという例が書かれています。

  A78は4命令フェッチ,6MOP処理ですが,X1では5命令フェッチ,8MOP処理と命令処理部のバンド幅が増えています。また,A78はNEONが2個ですが,X1はNEONが4個になりSIMD演算が強化されています。多分,これがニューラルネットの性能が倍増した理由かと思われます。さらに,L1$がA78は32KBか64KBですが,X1では64KB固定で,L2$の最大量がA78では512KBに対してX1は最大1MB,L3$はA78が最大4MBに対してX1は8MBとL2,L3の容量も倍増しています。

  Cortex-A78は,A77と比べてL2$のバンド幅が2倍になっているというような改良がありますが,整数性能が7%向上では,大きな改善は無いようです。

  ディープラーニング向けのEthos-N78はN77と比べるとピークMAC性能は2倍以上となり,必要なDRAMメモリバンド幅は最大40%少なくなっています。

  グラフィックスのMali G-78 GPUは,大ざっぱに言うとG-77と比べて25%の性能向上とのことです。Mali G-77 GPUでは最大コア数は16でしたが,Mali-G78ではこれが24コアに拡大されています。そして,G78はG77に比べて10%消費エネルギーが減っています。ただし,これは同じプロセスで製造し,同じような負荷での動作の場合の推定値です。

  G78の改善は,Asynchronous Top Level,Tiler Improvement,Fragment dependency trackingの改良と書かれていますが,詳しい説明は無く,どのような理屈で改善が得られるのかイマイチ分かりません。


4.米国のNSFの大規模改革法案の行方は

  2020年5月27日のHPC Wireが,米国の上院と下院にNSFの拡充,改革法案が提出されたと報じています。

  この法案は,現在,年間$8B程度のNSFの予算を5年間で$100Bに増額し,担当範囲をサイエンスだけでなく,テクノロジも加えるという物です。予算が増えるのは嬉しいのですが,これまで科学的な興味を追求する研究を支援してきたNSFをNational Science and Technology Foundationに改称し,テクノロジを加えたことで,政策によって研究目的が左右されるようになるのを警戒する声もあるとのことです。

  この法案は,民主党と共和党の賛成を得ているとのことで,多少,修正が加わるとしても,成立すると思われます,

  スパコンで言えば,大部分のビッグマシンはNNSAの核研究予算で作られ,NSFのものはTACCのFrontera程度で,大きな変更は無いのかも知れませが,米国の基礎研究がどうなっていくのかには注意を払っていくべきと思います。

 

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