最近の話題 2020年6月27日

1.理研の富岳がTop500で1位を獲得

  2020年6月22日に発表されたTop500で1位を獲得しました。HPL性能では415.5PFlopsで,ピーク性能でも513.85PFlopsで,アメリカの人はExaではなくHalf Exaと呼んでいる人もいました。しかし,米中勢が100PFlops級のプレエクサシステムを作り,本格的なエクサ機は2022年の予定で開発しているところを,2020年に(コロナ研究のために1年前倒しで)稼働させてしまったので,対抗するシステムが存在せず,Top500の首位が転がり込んだという感じもあります。別に1ExaFlopsというきりの良い数字に意味があるわけではなく,0.5Exaでも2年早ければ大きな意味があります。

  それに2022年なら1Exa超えのマシンを作るだけの予算が取れるというわけでもないので,できるだけ予定を早めて2020年に500PFlopsで稼働というのは良い作戦だったかも知れません。

   そして,富岳は全体の87%にあたる360筐体を使った状態でHPSGで13.4PFlops,低精度浮動小数点でHPLを解き,倍精度で誤差を計算して,反復改良法で倍精度のHPLと同等の精度を出すHPL-AIで1.421EFlopsを達成し,いずれも1位を獲得しています。なた,Graph500では,全体の58%である92,160ノードを使用した状態で70980GTEPSで1位を獲得しています。

  主要なベンチマークで取れなかったのはGreen500くらいで,ほとんど全勝に近い快挙です。ただし,米中のエクサ機が出てくる2022年頃にはこれらに抜かれてランキング順位は大幅に下がると予想されます。

  富岳が取り逃がしたGreen500ですが,これはPreffered Networks(PFN)のMN-3というマシンが21.108GFlops/Wで1位を獲得しました。MN-3スパコンはPFNはマシンラーニング用のエンジンとして開発したMN Coreというアクセラレータを160個使いHPLで1.6211Tlopsのマシンです。

2.プリファードネットワークスのMN-3Green500で1位を獲得

  日本最大のユニコーンのプリファードネットワークスのMN-3スパコンが2020年6月22日に発表されたGreen500で1位を獲得しました。電力効率は21.108GFlops/Wで,NVIDIAの新GPU A100を使うSeleneを抑えて1位になり,今回はTop500なども含めて日本勢が全勝という結果になりました。

  なお,Green500の2位はNVIDIAのSelene,3位はPEZYのNA-1で4位は前回1位のA64FXプロトタイプです。

  MN-3はPFNの自社開発のMN CoreというAIエンジンLSIを使っていますが,MN Coreの開発には神戸大学の牧野先生が協力され,PFNの西川社長の恩師で東大を退官された平木先生も協力されており,日本のトップレベルのスパコン研究者が開発に参加しています。

  MN-3はTop500では1.62PFlopsで395位ですが,PFNのMN-3の設置ビデオを見ると,今回のMN-3に比べると10倍以上の数のラックがセンタのフロアに運び込まれており,完成時には10倍以上の性能のスパコンになると思われます。

3.AppleがMacのプロセサを自社製に替える

  2020年6月24日のEE Timesが,AppleがWWDCで,Macのプロセサを自社製のarmプロセサに替えていくと発表したと報じています。iPhoneやiPadでは自社でプロセサを開発して使用していますが,MacについてはIntelのプロセサを使っています。

  このプロセサはiPhoneやiPad用のA14とほぼ同じですが,より大きな消費電力を許容できる造りになるとのことです。

  プロセサの命令アーキテクチャが変わるのですが,Appleは過去に何回もプロセサの命令アーキテクチャを変えエミュレーションで以前の命令アーキをサポートするという芸当をやってきた歴史があり,今回も,このような方法で,intelアーキのプロセサで動いていたプログラムを動かすと考えられます。

  Appleがプロセサを自社開発するのは,今回のIntelの10nmプロセスの立ち上げの遅延のような問題が起こっても,ロードマップを維持できるようにすることと,AppleのプロセサはハイエンドではIntelのものより性能が低いとしても,ノート用のプロセサの電力でデスクトップ用プロセサの性能を出せると考えており,そこでIntel CPUを使う他社のデスクトップに比べて低電力で薄型のPCを作って差別化しようという狙いと見られています。

4.AIソフトのスタートアップのMipsologyがFPGAでGPUを置き換えるZebraを発表

  2020年6月24日のEE Timesが,MipsologyというスタートアップがXilinxと協力して,GPUをFPGAに置き換えるZebraというツールを開発し,Xilinxが出荷を開始したと報じています。

  ZebraにGPUのプログラムやニューラルネットの重みを入力すると,FPGAのプログラムを作ってくれるというツールで,AIプログラムの知識も,FPGAプログラムの知識も不要で,FPGAで動作するニューラルネットが作れるとのことです。

  FPGAの演算器数はGPUの演算器数に比べて少ないのですが,FPGAの場合は演算器を有効利用できるので,ZebraのFPGAベースのエンジンのイメージ認識速度は,6倍のTOPS性能のGPUの性能を超えるとのことです。

  結果として,GPUからZebraのFPGAベースのハードウェアに切り替えると,コスト的に安くなるとのことです。

  ただし,このツールはニューラルネットの学習機能はもっていないので,精度の低下が大きいため,枝刈りや8bit未満の低精度ネットワーク化など再学習を必要とする機能はサポートしていません。


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