最近の話題 2020年10月3日

1.東証のArrowheadが10月1日終日停止

  2020年10月1日の日本経済新聞が,東証のArrowheadシステムの終日停止を報じています。このため,株などの場以外ができず,10月1日の夕刊の株式欄は全て空欄になりました。

  日経新聞の報道によると,取引情報を記憶している共有記憶のディスクの一方が故障して,バックアップ側に切り替えようとしたのですが,正常に切り替えられなかったとのことです。

  このようなオンラインのトランザクション処理システムでは,バックアップを取っておいて,故障時にバックアップに切り替えて,データに矛盾なく,引き継ぐというシステムですが,動作途中のシステムの状態を引き継いで処理を続けるのは難しい処理です。しかし,富士通はプロで,初代Arrowheadから10年やっているわけですが,今回を入れて3回の大規模システムダウンをおこしており,いまだにシステムが安定しないのでは,技術に不信感を持たれてもやむを得ないところです。

2.アルゴンヌのAuroraはどうなるのか?

  2020年10月1日のHPC WireがAuroraがどうなるのかについて,現状と見通しを書いています。元々,AuroraはPre Exaのシステムで2018年に完成の予定でしたが,Intelの遅延で,2017年に計画を全面的に見直し,2021年にエクサのスパコンを納入することに替わりました。

  しかし,それがさらに遅延しており,間に合わせるためにはIntelの7nmプロセスではなく,TSMCかSamsungにPonte Vecchioチップを作ってもらう必要があるという状況になっています。一方,Intelの7nmプロセスだと2021年に納入ができるかどうかで,ピーク1.5EFlopsのOak RidgeのFrontierと時期が重なってきています。

  主契約者のIntelは,公式には予定を守ると言い続けていますが,大きな懸念があります。

3.Intelが半導体テクノロジとニューラルネットで米国の主要研究所と協力

  2020年10月2日のHPC Wireが,Intelが次世代半導体製造,コンピューティングの分野で主要研究所と長期(10年程度の期間の)の共同研究を行うと報じています。IntelとArgonne国立研究所はIntelの半導体プロセス開発の遅延から,Auroraが遅延しそうでお尻に火がついている状況で,半導体も手を打たないと中国に後れを取る恐れも出てきています。 

  もう一つの共同研究の分野はニューロコンピューティングで,Intel Labsが推進しているLoihiチップとPohoiki Springsシステムです。Loihiはスパイク型のニューロチップで,各社のニューロチップと比べて消費電力が大幅に小さいとのことです。

  Intelは768個のLoihiチップを使うPohoiki Springsシステムを完成しています。このシステムは100Mニューロンのシステムですが,IntelはSandia国立研究所と協力して規模を拡大していく予定とのことです。

4.NVIDIAがarmに大金を投じる理由は?

  2020年9月29日のThe Registerが,NVIDIAがarmを買うのはarm CPUでの自動運転の開発を目指しているからと書いています。

  armは自動運転向けにCortex-A78AEというプロセサを開発しています。AEはAutomotive Enhancedという意味だそうです。自動運転というと,周囲の人や車を認識してぶつからないように走ることが頭に浮かびますが,その前に安全機構が正しく動いて,車やドライバの安全を確保できる設計になっていることが,重要です。

  車全体でいろいろな部分の故障率がどうなるか,それだけでは不足の場合は二重化やエラー訂正などを組み込んでエラー率を下げる必要があります。また,ブレーキやステアリングがエラーすると被害甚大ですが,インスツルメントパネルが故障しても,直ちに運転ができなくなるわけではないという重要性に違いがあります。この重要性をASIL-AからASIL-Dで表して,それぞれで達成すべき故障率などを定めています。

  このような車全体での安全性の確保という点ではarmは進んでいて,A76の時代もA76 AEというCPUを作っていました。A78AEはこれをCortex A78ベースにアップグレードしたものです。

  NVIDIAは周囲の状況の認識などでは技術を持っていますが,車全体での安全性の確保という点ではarmの方が先行しており,NVIDIAはDrive AGX OrinではarmのA78AEかその変形のプロセサを使い,車の安全性の確保の分野で他社に差を付けようとしているとの見立てです。

5.D-Waveが5000QubitのQuantum Advantageの販売を開始

  2020年9月29日のHPC Wireが,D-Waveの5000qu-bit のアニール型の量子コンピュータの発売を報じています。これまでの最大規模の製品は2000qubitでしたから,今回の製品は2.5倍のサイズになっています。

  そして,discrete quadratic modelのソルバを持ち,量子アニールと通常の最適化ソルバーの使用を組み合わせ,最大1M変数の実用的な最適化問題が解けるとのことです。

  これでQuantum Advantageシステムは,実用的な規模の問題をディジタルの最適化で解くよりも実用的な効果を発揮するとのことです。

  なお,5000 qubitのチップは新設計で従来よりもqubit間の接続性が改善されているとのことです。


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