最近の話題 2020年11月21日

1.Top500で富岳が2連勝

  2020年11月17 日に公表されたTop500で富岳がトップになり,2連勝となりました。前回は一部のノードが動いていない状態でしたが,今回は7,630,848ノードが動作し,LINPACK性能は442,010.0TFlopsとなりました。2位のSummitは148.600TFlopsですから,約3倍の性能です。

  消費電力は29,899kWで,富岳はGreen500では10位となりました。なお,Green500ではNVIDIAの19,840コアのDGX SuperPODが26.195GFlops/Wで1位となりました。そして,PFNのMN-3が26.039GFlops/Wで2位となりました。MN-3は前回は21.108GFlops/Wだったのを23%あまり改善したのですが僅かに及ばず2位になりました。

  Green500について言えば,前回は277,760コアという大規模のSeleneが2位だったのですが,大きなシステムではネットワークなどの電力が大きくGFlops/Wは低下するので,今回はMN-3を超えることを狙って,小型のDGX SuperPODをぶつけてきたものと思われます。

  なお,富岳はTop500の1位に加えてHPCG,HPL-AI,Graph500でも1位を獲得し,ベンチマークの1位の独占状態です。

2.ゴードンベル賞は米国と中国の合同チームが獲得

  2020年のゴードンベル賞は,Pushing the Limit of Molecular Dynamics with Ab Initio
Accuracy to 100 Million Atoms with Machine Learningという論文が獲得しました。第一原理の分子動力学計算をマシンラーニングを使って高速化する研究で,従来の方法では数千原子程度の計算がせいぜいだったのを1億原子クラスまで拡張したものです。

  最近は,AIを使って答えの予測精度を上げ,正解にたどり着く時間を大幅に短縮するという手法の研究が盛んで,その流れの研究と思われます。数千しか解けなかった問題が1億以上でも解けるというのはものすごい性能改善です。

  今回はCOVID-19と戦う研究のゴードンベル特別賞が設けられ,これは米国のチームが受賞しました。AI-Driven Multiscaale Simulations Illuminate Mechanisms of SARS-Cov-2 Spike Dynamicsという論文で,この論文もAIを使って,正解にたどり着く手順を高速化しています。このチームは,COVIS-19の感染性の研究にこの手法を利用しています。

  日本からも,東大の加藤千幸先生のチームと理研のチームは候補に入っていましたが,受賞には至りませんでした。

3.MythicのアナログハイエンドエッジAIアクセラレータ

  2020年11月19日のEE Timesが,Myhicの35TOPSの性能を持つ,ハイエンドのエッジ向けAIアクセラレータの発表を報じています。特徴は40nmプロセスのFlashメモリセルベースのAnalog-compute-in-memoryセルを使っているという点です。

  M1108 という名前の今回発表された製品は,108個のセルアレイを持ち,セルアレイ自体が抵抗マトリクスになっており,DAコンバータで入力電流を与えて,入力電流と抵抗値の積を造り,さらに,それらをアナログ的に足し算するようです。このようにアナログ計算すれば,面積を食う掛け算器は不要です。アナログ計算の場合,精度が問題ですが,Mythicは8bit程度に相当する計算精度をもっている,他社はこの精度には追随できないと言っています。

  MythicのM1108 はResNet50の画像認識で870fps,Yolo v3-608x608では60fpsの認識ができ,これはNVIDIAのXavier AGXより性能が高いとのことです。

  さらにM1108は重みの記憶はFlashメモリに格納しているのでDRAMは不要で,計算はアナログで行っているのでチップ面積が小さく,40nmのFlashプロセスという先端ではないプロセスなので,製造コストもひくいとのことです。それでもM1108チップは113Mの重みを記憶できるので,複数のネットワークを記憶しておくこともできるとのことです。

  そして,このクラスのエッジAIチップは10-15Wの消費電力というのが普通ですが,M1108は4Wで,セキュリティーカメラに使う場合,Power over Ethernetで給電できるというメリットがあるとのことです。

  アナログ演算でINT8に匹敵する精度が出せるという所がすごいところです。

4. アレシボの電波望遠鏡は爆破に決定

  2020年11月19日のThe Register,老朽化したアレシボの電波望遠鏡は壊れてきており,修理をすることは危険と判断され,望遠鏡は破壊されることになったと報じています。

  プエルトリコの窪んだ自然の地形を利用して作られた300mのパラボラは,自由に方向を変えることはできませんが,地球の自転を利用して一定の範囲内の空を観測することができ,2重星のパルサーを発見するなどの成果を上げてきました。

  しかし,建造から50年が経ち,望遠鏡の焦点部分を保持するケーブルが最近のハリケーンで切れるなど老朽化が進んでいました。当初は修理を考えていたのですが,調査の結果,修理中に落下する恐れもあり,修理は危険で,破壊するしかないという結論になったとのことです。




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