最近の話題 2021年1月16日
1.Pat GelsingerがIntelに帰ってくる
2021年1月13日にIntelは,2月15日にPat Gelsinger氏がIntelのCEOになると発表しました。Gelsinger氏は永くIntelに勤め,IntelのCTOとなりました。彼は,Grove,Noyce,MooreといったIntelの第一世代のCEOと働いたエンジニアで,私は,PatがIntelのCEOになると思っていたのですが,2009年にIntelを去りEMCに行き,2012年にはVMwareのCEOになりました。
Intelの強みであった半導体テクノロジが,TSMCやSamsungの後塵を拝する状態になっている今,Gelsinger氏のIntel立て直しに期待するところがあります。この発表の直後にIntelの株価はあがりました。
また,先週はQualcommのCEOのSteve Mollenkopfが今年6月にリタイヤし,PresidentのChristiano Amonが後任のCEOになると発表されました。
2. Jim KellerがカナダのAI]スタートアップのTenstorrentに
2021年1月7日のEE Timesが,IntelのSilicon Engineering GroupのシニアVPを務めていたJim Keller氏がカナダのAIスタートアップのTenstorrentに,President & CTOという待遇で移ると報じています。Keller氏は,その前はTeslaのVPで同社のAutopilotを開発しており,その前はAMDでZen CPUコアを開発,その前はAppleでA4-A7を作ったとか輝かしい経歴のエンジニアです。
TenstorrentはトロントのAIアクセラレータを開発するスタートアップでデータセンタ向けの推論エンジンのGrayskullを開発しています。Grayskullは120個のTensixコアを集積し,消費電力65Wで,368TOPSとのことです。BERT base, SQUADのスコアが2,830というのはともかく,これにconditional実行と低精度FPを合わせると23,345と約8倍に性能が向上しているのは大したものです。Software 2.0 と呼ぶソフトでSparsityをうまく使って,電力を下げ,計算の無駄を省いて性能を上げているものと思われます。
Grayskullは推論専用ですが,TenstorrentはWormholeという学習に使えるエンジンを開発しており,2021年の遅い時期にできる予定です。
3. Graphcoreが自社のベンチマーク結果を発表
2020年12月20日のEE TimesがGraphCoreの自社のベンチマーク結果の発表を報じています。GraphCoreのIPU-M2000とNVIDIAのA100を比べているケースが多いのですが,例えばResNet-50の学習ではIPU-M2000は4326イメージ/秒で,これはNVIDIAのA100に比べて2.6倍の性能,ResNet-50の推論では9856イメージ/秒で,A100より4.6倍高いスループットと主張しています。
しかし,A100は1個のGPUチップであるのに,IPU-M2000はIPU-MK2チップが4個入ったサーバです。また,GraphCoreは64チップのIPU-Pod64とNVIDIAのDGX-A100を1台(8個のA100),あるいは2台(16個のA100)と比較しています。GraphCoreは,ユーザはチップの個数が何個かは気にしない,性能/$で比較すべきと言っていますが,値段は売り手の価格政策でも変わって来るので,ベンチマークのコンポーネントにするのは難しいところです。
ということで,MLPerfを使っての測定をすべき,2021年3月ころのMLPerfの次回のリスト発表を待たずに,独自ベンチマークの結果を発表したのかと言う意見が多いようです。
なお,MLPerfはMLCOMMONSが管理することになり,GraphcoreはMLCOMMONSに加盟すると表明しているので,遠からずこの問題は解決すると思われます。
4. Graphcoreが$222Mを調達
2020年12月31日のEE-Timesが,GraphcoreがシリーズEのファンディングで$222Mを調達したと報じています。2016年の創立以来の調達額は$710Mですが,会社の価値は$2.77Bとなっています。
この資金は,7月に発表した第2世代のColossus Mark 2 IPUの量産開始に使うとのことです。
ベンチャーキャピタルからの資金調達は,これが最後で,次はIPOになると考えていますが,それは2021年には起こらないと考えているとのことです。
5.QualcommがCPU開発のスタートアップのNuviaを$1.4Bで買収
2021年1月13日のEE Timesが,QualcommがサーバCPUを開発するスタートアップのNuviaを$1.4Bで買収すると報じています。Nuviaは2019年に創立された会社で,これまでに$293Mの投資を集めたとのことですが,ほんの2年足らずで,それが$1.4Mになれば投資家は大儲けです。
Nuviaの創立者でCEOのGerard Williams IIIは,AppleのチーフCPUアーキテクトを務め,その後armのFellow,創立者のManu GulatiはGoogleのリードSoCアーキテクトで,その前はAppleのリードSoCアーキテクト,もう一人の創立者のJohn BrunoはGoogleのシステムアーキテクトという経歴です。
QalcommはSnapdragon CPUを持っているのですが,Nuviaの技術を加えることでCPUの性能がステップ関数で向上するとのことです。Nuviaが開発しているPhoenix CPUは,パイプラインを根本的にオーバホールしたものだそうです。プロセサの命令アーキテクチャはarmアーキテクチャとの事です。
QualcommはNuviaのプロセサテクノロジをCPUだけでなく,GPUやAIエンジン,DSP,やマルチメディアのアクセラレータにも適用して行く考えです。
6.TSMCが3nmプロセスの製造開始は2021年,量産は2022年と発表
2021年1月15日のThe Registerが,TSMCのC.C.Wei CEOが四半期の決算発表の場で,3nmプロセスの製造開始は2021年,2022年には量産を開始するという発表をしたと報じています。
3nmプロセスはフルノードで,5nmノードと比べるとロジック密度は70%向上し,性能は15%アップ,電力低減は30%とのことです。
3nmプロセスの立ち上げに向けて,2021年には$25B~$28Bの設備投資を行うとのことです。これは2020年の$17.2Bと比べるとおおよそ1.5倍の設備投資額です。
この金額の一部はアリゾナ工場の建設にも使われます。アリゾナ工場の稼働は2024年の予定で,2万ウェファ/月の製造能力とのことです。
2020年の最終四半期の売り上げは$45.5B,ネットインカムは$17.6Bと発表されました。