最近の話題 2021年2月20日

1.ISSCC 2021開幕 TSMC Liu会長が基調講演

  2021年2月15日のEE Timesが,ISSCCの開幕とTSMCのMark Liu会長による基調講演を報じています。今年のISSCCはコロナのため,バーチャル開催です。

  Liu会長の基調講演は”Unleashing the Future of Innovation”と題して半導体の微細化のロードマップについて述べられました。

  まず,微細化の進捗ですが,TSMCの3nmプロセスは予定通りの進捗で2022年に量産で,5nmプロセスに比べて1.7倍のロジック密度,スピードの11%向上,電力の27%低減を実現すると述べました。微細化に当たって露光が問題であったのですが,EUV露光が立ち上がり微細パターンの露光の技術的問題は解決した。ただし,露光コストについては,まだ,問題が残っているとのことです。

  トランジスタの構造はゲルマニウムを入れた高移動度チャネルとナノシートをゲートで囲んだGAA(Gate All Around)構造で,SRAMセルを0.46Vで動作させられるようになり,当面の進路は見えている。電源を0.46Vまで下げられれば消費電力の問題は楽になる。

  そして,Design Technology co-optimizationで,2年ごとにロジック密度1.8倍とチップサイズの35~40%の増加のペースを維持できると考える。

  また,hexagonal boron nitride(hBN)という物質を実用化できる可能性が出てきた。この物質は低温で加工できるため,アクティブ素子の層を積み上げて真の3次元半導体が作れる。

  2年ごとにデータスループット1.8倍は達成できるが,バンド幅の増大は1.6倍にしかならず,遅れているのが問題と指摘した。しかし,チップ間の接続密度の向上は大きな余裕があるので,接続本数を増やしてバンド幅を改善する手を取れる。

  したがって,2040年ころまでは,現在の半導体の性能向上ペースを維持できるという楽観的な結論です。

2.SamsungのEUV露光を使うD1z DRAMの解体調査

  2021年2月18日のEE Timesが,EUV露光を使ったSamsungのD1z DRAMのTechInsightの解体調査結果を報じています。ロジックは7nmプロセスとか5nmプロセスと言いますが,DRAMは1x,1y,1zなどという名前で,x,y,zと1の後の数字が小さくなっていくという表現の仕方をとっています。

  これらのDRAMチップは,スマホを解体してEUV露光を使うD1zのLPDDR5メモリを見つけると取り外して,TechInsightがチップを取り出して計測を行っています。

  この計測の結果,Cellサイズは0.00197um2とのことです。D1y世代のチップでは0.0231um2であったので,約15%小さくなっています。

  EUV露光が使われているのはStorage Node Landing PadとBitline Landing Padの1層だけとのことです。写真で見るとEUVの方が線の太さの均一性が良いように見えます。

3.SamsungがHBMにAIエンジンを組み込んだHBM-PIMを発表

  2021年2月17日のHPC Wireが,SamsungのHBM-PIMの発表を報じています。通常のHBMは8枚の8Gbitダイを積層するのですが,HBM-PIMの場合は4枚は4Gbitのメモリと各メモリバンクにAI演算のためのProgrammable Computing Unitを持つダイと4枚の8Gbitダイを積層しています。

  PCUのクロックは300MHzで各種のFP16オペレーションが実行できます。そして,コントロールは通常のメモリコマンドとして与えるようになっており,メモリコントローラを変更する必要はありません。PCMは16wideのSIMDとなっています。

4.NVIDIAがRTX 3060の暗号通貨マイニング性能を引き下げる

  2021年2月18日のThe Registerが,2月25日に発売されるGeForce RTX 3060で暗号通貨Ethereumのマイニング性能を半分に引き下げると報じています。NVIDIAの最新のAmpereアーキテクチャのGA106 GPUチップを搭載するGeForce RTX 3060 GPUボードを2月25日に発売するのですが,ドライバのソフトウェアを改造してEthereumのマイニングで出てくる特徴的な動作を検出すると,クロックを50%に引き下げる機能を組み込むのだそうです。

  RTX 3060は$329で,メインストリームのGPUですが,このシリーズの最上位のRTX 3090の1/3程度の性能を持ち,コストパフォーマンスの良いマイニングプラットフォームになります。そうすると,マイナーが買い占めて,ゲーマーの手に渡らないという事態が起こります。なお,上位のRTX 3070,3080,3090は発売と同時に売り切れ,ゲーマーから非難の声が上がっています。

  これを食い止めようというのが,今回の措置です。

  なお,性能を引き下げるのはEthereumだけで,その他のマイニングソフトには影響しません。Ethereumのマイニングが率が良く,需要が多いので,この措置で効果があると考えています。

5.GSI TechnologyのSimilarityサーチアクセラレータ

  2021年2月18日のEE Timesが,GSI TechnologyというメモリメーカーのGeminiという類似点サーチを行うアクセラレータについて報じています。顔認識といえばCNNでと言うのが普通ですが,多数の顔の写真の中から一致する顔を見つけ出すのは計算量が多くなり,処理時間が掛ります。

  GSIの方式は,まず,特徴ベクトルを抽出し,次に特徴ベクトル同士の一致を探すという2ステップの処理を行います。そして,GSIは特徴ベクトルの一致を探す部分をGeminiハードウェアが加速し,一致する顔を見つけるレーテンシを大幅に短縮するとのことです。

  GSIもAIを使うのですが,画像認識を行うのではなく,意味情報を多く含んだ特徴ベクトルの抽出を行うためにニューラルネットを使っています。そして,多数の特徴ベクトルの分布の中から距離の近い,塊を見つけ出して出力を出すという流れで認識を行います。この距離の近い塊を見つけ出すステップで,GSIはGeminiアクセラレータを使っています。

  GeminiはSRAMセルに多少の回路が付いたセルで連想的にサーチを行えるようですが,記事の載っている回路図を見ても,どういう動作を行うのか良く分かりません。Geminiチップは,この連想セルを2M個搭載しています。加えて48Mビットの10TSRAMと96MbのL1キャッシュが載っています。8bitデータを25TOPSで演算できると書かれています。

  TSMCの28nmのHPC++プロセスで作られ,TDPは60Wとなっています。

  最初から画像認識で一致を探すのは大変ですから,特徴ベクトルを抽出して,それの一致を探すのは良い方法だと思います。

6.2021年2月15日はENIACの75歳の誕生日

  2021年2月15日のHPC Wireが,今日はENIACの75歳の誕生日という記事を載せています。ENIACの誕生を報じる記事がNew York Timesに載ったのは1946年の2月15日であったとのことです。

  ENIACは真空管をデバイスとして使う全電子回路のコンピュータで,18000本の真空管と7200個のダイオードを使うその時代としてはけた外れの高性能を誇るスパコンでした。


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