最近の話題 2021年4月3日


1.armが次の10年の新アーキテクチャarm v9を発表

  2021年3月30日のEE Timesが,armの新アーキテクチャarm v9の発表を報じています。v9はセキュリティーやコンフィデンシャルコンピューティング,AI処理などに大きな改良が加えられており,性能的には次の2世代のモバイル用とインフラストラクチャ用の製品で30%以上の向上を見込んでいるとのことです。そして,AI機能はGPU,CPU,NPUの全てのプロセサで強化されるとのことです。

  そして,v9はv9.1,v9.2という風に,毎年,更新されていくと述べています。

  性能ですが,EE Timesに掲載されたスライドでは,メモリレーテンシは現在150nsですが,メモリレーテンシを5ns短縮するごとに1%性能が上がると書かれていて,グラフはメモリレーテンシ90nsまで引かれています。90nsに短縮されると12%泥濃が上がる勘定です。

  そしてクロック周波数は100MHz上がるごとに3%の性能向上で,現在の2.6GHzから3.3GHzに線が引かれており,ここで21%性能が向上することになります。メモリバンド幅は10GB/s改善するごとに2%の性能向上で,20GB/sから60GB/sに線が引かれています。ここで8%の性能向上です。そして,キャッシュはL2キャッシュ,L3キャッシュの量を倍増すると9%の性能向上と書かれています。

  これらを単純に合計すると50%の性能向上になりますので,これらの4項目が全部,ここに書かれた数字にはならないと見込んでいるのかも知れません。

  AI/MLアクセラレータは将来的にも継続して搭載されると考えますが,用途によって必要となる処理のバリエーションが大きく,さらにクラウド環境での開発環境のサポートや,セキュリティー機能の組み込みを考えるとAI/MLアクセラレータはよりCPU的になって行くのではないかと見ています。

  そして,セキュリティー機能の強化では,Microsoftと共同で研究しているメモリのrealm管理のサポートが考えられています。realmがサポートされると,ハイパーバイザもその上で動いているアプリのデータをアクセスができないようになり,秘匿性が高まるとのことです。ただし,realmのサポートは時間がかかるので,当初はメモリ領域のタグ付けとアクセスにはタグの一致のチェックになるとのことです。

2.ピッツバーグ スパコンセンタがCerebrasのCS-1を導入

  2021年3月29日に Pittsburgh Supercomputing Center (PSC)は,CerebrasのCS-1とHPEのSuperdome FlexからなるAIスパコンのアーリーユーザ アクセスを開始すると発表しました。ウェファスケールエンジンを搭載するCS-1がAI計算のエンジンで,Superdome Flexは大量のデータを扱うシステムとなります。

  NSFからの$5Mの研究資金でのこのシステムを導入するとのことです。Neocortexと名付けられたこのシステムは,創薬,遺伝子解析,分子動力学,流体力学,信号処理,医用画像の解析などに使用されるとのことです。

  PSCは,カーネギーメロン大学とピッツバーグ大学の共同のコンピューティングの研究センターで,Neocortexは選ばれた研究者には無償で提供されるとのことです。

3.Quantum Brillianceがダイアモンドベースの量子アク セラレータを設置

  2021年3月30日のEE Timesが,Quantum Brillianceというスタートアップが量子コンピューティングのアクセラレータをオーストラリアのPawsey Super Computing Centreに設置すると報じています。Quantum BrillianceのQubitは合成のダイアモンドに作ったnitrogen-vacancy (NV) centerにQubitを格納するもので,ダイアモンドが非常に硬く,不純物も殆ど無いので,常温でもQbitを長く保持できるとのことです。

  Qubitの操作はレーザ光の照射とマイクロウェーブで行っています。

  Quantum Brillianceは,5年以内に50Qubitの量子コンピュータを作る予定です。5年以内に常温で動かせる量子アクセラレータが出来れば大きな進歩です。なお,量子コンピュータではなく,量子アクセラレータと呼んでいるのは汎用の計算ができる訳ではないが,創薬のための分子動力学計算などを超高速で実行するアクセラレータになるという考えによるものと思われます。

4.IBMがクリーブランドクリニックに量子コンピュータを設置

  2021年3月31日のHPC wireが,IBMがクリーブランドクリニックと10年間のパートナシップ契約を結び,IBM Quantum System One量子コンピュータをクリニックに設置すると報じています。クリーブランドクリニックは100年の歴史を持ち,従業員70,800人と言う巨大病院です。

  IBMはインタネット経由で量子コンピュータを使わせていますが,ユーザにオンプレミスの量子コンピュータが設置される,初めての事例になります。

  クリーブランドクリニックの研究者がCOVID-19に使える薬のサーチを行おうとしたのですが,現有のシステムでは何カ月もかかるという見積もりになったそうです。そこでIBMに相談したら量子コンピュータを使えば1週間でできると言われ,IBMとパートナシップを結ぶことにしたのだそうです。

  一方,IBMとしては本当に量子コンピュータを使うユーザと共同研究ができることは,量子コンピュータを製品に仕上げるには大きなプラスになります。

  最初に提供される量子コンピュータは,50-100Qubitの規模ですが,IBMの発表したロードマップでは2023年頃には1000Qubitとなっており,クリーブランドクリニックに設置されるマシンもそれに沿ってアップグレードされることになります。

5.2020年のTuring Awardは,コンパイラを作ったUllmanとAhoが受賞

  2021年4月1日のThe Registerが,2020年のTuring賞はJeffrey Ullman氏とAlfred Aho氏に与えられると報じています。両氏がベル研究所で1967年にコンパイラの研究を始めたのが現在のコンパイラ発展の源流です。

  両氏が1974年に出版した"The Design and Analysis of Computer Algorithms”は,今も使われている教科書です。

  そして,コンパイラがもたらしたプログラム開発の効率向上が無ければ,これほどのコンピュータの普及は考えられません。

  Aho先生はコロンビア大の名誉教授,Ullman先生はスタンフォード大の名誉教授として,コンピュータ関係の教育や執筆に携わって居られます。

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