最近の話題 2021年5月15日

1.90文字/分で脳からテキストを書き出し

  2021年5月13日のThe Registerが,スタンフォード大の研究者が,首から下がマヒした65歳の患者の脳の表面に数100本の針を持つ2つの電極を取り付けて脳の活動電位を読み取り,その信号がどの文字の出力を意味するかをAIで推論させるという方法で,90文字/分の速度でテキストを出力するのに成功したと報じています。この速度は脳とマシンのインタフェースの速度として最高速の記録だそうです。

  患者は3日間のコースで572の文章を書き出すように求められます。書き出しは,文字単位で,その文字を書いていく手,指の動きを想像で行うようです。

  31,472文字のデータセットで学習を行い,90文字/秒の速度で出力してエラー率は6%であったとのことです。出力は表示されるので,間違いは分かるのですが,このシステムにはデリート機能がないので患者が訂正することはできません。ただし,文章の自動訂正機能をオンにすると,エラー率は3.4%に低減したとのことです。

  このエラー率はスピーチから文字列への変換と同程度のエラー率とのことです。

  入力がマイクロフォンからの信号か,脳の活動電位化かの違いだけで,ほぼ同じような認識ができるのは,当然とも思えます。

  ただし,この実験は一人の患者だけで,他の患者に適用するのにどの程度の手間が掛かるのかなどは,まだ,分かっていません。 


2.Samsungが世界初のCXL拡張メモリを発表

  2021年5月11日のFierce Electronics,Samsungの世界初のCXL Memory Expanderの発表を報じています。Compute Express LinkはPCIe5.0に基づく高速の多用途のリンクとして標準化がすすめられているもので,メモリやアクセラレータ,I/Oなどを接続する汎用リンクとして期待されています。

  今回,Samsungが発表したものはDDR5 メモリをサーバCPUに外付けしてメモリ容量を拡張するもので,メモリ転送速度は51Gbpsとなっています。

  ただし,今回デモしたものは試作品で,商品としての発売時期や価格などは未定とのことです。

3.IntelとQutechの研究者が2つのQubitの切り替えに成功

  2021年5月12日のFierce Electronicsが,開発中のHorse Ridge超低温CMOSチップでのQubitのマルチプレクスに成功したとNature Machine Intelligenceに発表したと報じています。

  これまでの量子コンピュータでは,量子ビットの操作には量子ビットごとに配線を引き出す必要があり,これが量子チップの集積度を上げる上で障害になっていました。この問題に対して,Intelは,3°K程度の温度で動作するCMOSチップを作り,そのチップにマルチプレクサを搭載して,常温部分に引き出す信号線を減らすという研究を行ってきていました。このチップがHorse Ridgeで,このほど,2つの量子ビットを切り替えることに成功したという発表を行いました。

  これで,超低温(20m°K)の量子ビットと外部の接続線の本数を少なくして量子コンピュータを作る基礎技術ができたことになります。


4.AMDが2022年末までに$1.6Bのウエファ購入契約を締結

  2021年5月13日のHPC Wireが,AMDがGlobal Foundriesから2024年末までに$1.6Bのウエファの購入を行う計画であることが判明したと報じています。この契約は,2021年5月12日から2024年12月31日の間に12nmと14nmテクノロジノードのウエファをAMDが購入し,Global Foundriesが供給することを約束するもので,ウエファの争奪戦になっている今日の状況では,Global Foundriesからの供給を確保するものです。

  対象となるのはAMDのRomeやMilan CPUで使われているIOチップと,PCやIoTに使われている12nmと14nmテクノロジのウエファで,7nmのプロセスを使うRomeやMilan CPUチップは含まれていません。これらのチップはAMDは引き続きTSMCから購入すると考えられます。

  時が経って,CPUは5nmあるいは3nmテクノロジになった時には,IOチップのテクノロジも微細化する可能性がありますが,その時に,ウエファの供給がどうなるかは分かりません。しかし,私は,Global Foundriesが7nmなどのテクノロジを自社開発することは無いのではないかと思います。そうなると,AMDはTSMCからIOチップのウエファを買うとか,その時期には,本格的に本格的に本格的にファブビジネスを始めているIntelから買うとかいうことになるのではないでしょうか?


5.VICORのDC 48V給電アーキテクチャ

  2021年5月13日のEE Timesが,VICORという会社のDC 48V給電アーキテクチャの記事を載せています。PCIカードが12V給電を使っているので,GPUでも12Vが使われているのですが,消費電力が300Wを超えると給電系のオーム損が無視できなくなります。そこで,電話局など通信系では古くから使われている48Vを使おうという動きが出てきています。

  12Vを48Vに上げると電流は1/4となりI2Rは1/16に減少します。ただし,DC48Vは不用意に触ると感電の危険があり,感電死もありえるので,注意が必要です。

  通常のDCDCコンバータで,出力電圧を1Vにしようとすると,1週期の1/48だけ48Vのパルスを出力し,残りの期間はそのパルスをLとCで平滑化して1Vを出力するというやり方になるのですが,これでは高い変換効率を実現するのは難しくなります。

  VicorのアーキテクチャはPre-regulation moduleという回路を通してDC48Vを交流に変換し,それをvoltage transformation moduleで電圧を1/K,電流をK倍に変換します。この部分は40ピン位のDIP LSIのように見えますが,磁気回路を使ったトランスを含むハイブリッドになっています。

  私がVicorのDCDCコンバータを初めて見たのは,PEZY/Exascalerのマシンですが,その直後にNVIDIAがハイエンドGPUのSMX4モジュールに使用し始めました。しかし,NVIDIAはVicorの名前を消して何を使っているのか分からないようにして展示をしていました。

  それから,VicorはNBM2317という製品を出しており,このコンバータはDC12Vを入力としてDC48Vを出力する,あるいは逆に,DC12V入力でDC48Vを出力できるコンバータです。このような両方向の変換は,トランスでなければできない芸当です。


  

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