最近の話題 2021年6月12日
1．上院が半導体チップのR&Dに$52Bという予算案を出し，下院での議論が始まる
中国などに供給を依存する重要な部品や原料があり，米国の製造，供給ラインが脆弱であることから，大統領の指示で見直しが進んでいます。
2021年6月9日のEE Timesが，上院が半導体のR&Dに$52B（約5兆7000億円）を割り当てるという予算案を作成し，賛成68，反対32で可決しました。このため，次の焦点は下院がどのような予算案を提案してくるかに移っています。
6兆円弱というのはものすごい巨額ですが，例えば，7nmかそれ以下のプロセスで使われるシリコンウェファを量産できるのは，現在は，信越化学とSUMCOだけです。また，村田製作所のチップコンが無ければスマホはできません。このように，米国で作れない材料や部品はたくさんあり，具体的には，どのような企業にいくら予算を付けて米国内で製造能力を持たせるのか決めるだけでも，信じられないような膨大な作業が必要な気がします。現実的に実現できるものでしょうか？
2．Intelが$2B以上でSiFive買収を提案か？
2021年6月10日のThe Registerが，RISC-VのIPの開発，ライセンスを行っているSiFiveに対して，$2Bを超える金額での買収を提案したと報じています。SiFiveは昨年のシリーズEファンディングで$61Mを集め，企業価値は$500Mという評価もありますが，事実とすれば，$2Bは非常に高い提案価格です。
現状では，IntelもSiFiveもノーコメントです。
市場では，IntelはRISC-Vをx86と並立するアーキテクチャにする意図はなく，NVIDIAのarm買収が成立した場合に，NVIDIAの邪魔をする手段としての買収という見方もあり，その場合はSiFiveがIntelのもとで成長するというシナリオは描きにくくなります。
この提案が事実としても，NVIDIAのarm買収が各国の独占禁止当局のOKが得られるか，その進捗をIntelがどう受け止めるかなどの不確定要素が多く，進捗を注視する必要がありそうです。
3．IBMがロードマップの失敗に関してグローバルファウンドリを訴え
2021年6月10日のThe Registerが，2021年6月8日に，IBMがGlobal Foundriesを約束した半導体ロードマップを実現できていないことに対して，少なくとも$2.5Bの損失の補償を求めて，ニューヨーク州の最高裁に訴えたと報じています。
2014年にIBMは半導体の製造から撤退し，IBMファブをGlobal Foundriesに譲渡し，10nmプロセスと7nmプロセスの開発のために，3年間で$1.5BをGlobal Foundriesに支払うという契約を結んだということです。しかし，Global Foundriesは，10nmプロセス，7nmプロセスの開発を完了できず，IBMは損失を負ったというわけです。
これだけを見ると，IBMの主張に分がある感じですが，一方，AMDはIBMのプロセスを使って，競争力のあるCPUやGPUを作っており，Global Foundriesが全く競争力がないとは言えないという主張もあり，これから裁判が始まるというわけです。
4．FastlyのContents Delivery Networkがバグでダウンし多くのWebサイトがアクセス不能に
2021年6月10日のCNET Japanが，2021年6月8日に発生したFastlyのCDNのダウンについて報じています。インタネットでは主要なサイトには多くのアクセスが押し寄せます。これらのアクセスを全て情報提供元のサーバで処理を行うのは無駄で，例えば，The New York Timesのサイトへの読み出しオンリーのアクセスは，日本のあちこちにコピーを持って置き，アクセスした人に近いところからコピーを送れば，遠距離のアクセスが減り，効率的です。
このようなサービスは昔からあり，Akamaiなどが有名なCDN会社です。Fastlyは新興のCDN会社で，Flash Storageで分散を行い，高速のコンテンツデリバリを実現し，デリバリを行うアルゴリズムの変更などが柔軟に行えるのがウリです。
しかし，今回は，5月に実施したパッチにバグがあり，6月8日にある顧客が実施した構成変更が，そのバグを顕在化させてしまったとのことです。その結果，Fastlyのネットワークの85%でエラーが発生し，Error 503 Service Unavailableの応答が返ってくることになり，コンテンツのデリバリが麻痺してしまったとのことです。
Fastlyはキャッシュのヒット率の低下などから異常の発生に気づき，約1時間後にパッチをあてて問題を修正したとのことです。