最近の話題 2021年8月28日

1.LLNLが核融合で大きな進歩を達成

  2021年8月24日のEE Timesが,Lawrence Livermore国立研究所のNational Ignition Facility(NIF)が1.35MWの出力を達成したと報じています。これは核融合の点火に必要なレーザーのエネルギーの1.9MJには届きませんが,これまでに達成した最大エネルギーを8倍に引き上げており,もう一息という感じです。

  NIFが開発しているのは,小さな金の球の中に水素,重水素,三重水素を詰め,それに192本のレーザービームをを当てます。このレーザーで金の球を爆縮して核融合に必要な温度や圧力を作り出します。ただし,現状は,まだ,燃料に点火するレーザのエネルギーより核融合で発生するエネルギーの方が多く,発電はできないのですが,点火に付いての知識は集まってきています。

  そして,1012Wのエネルギーを1秒以下の短時間発生させることが可能になるまで,もう少しです。核融合発電は放射性廃棄物の少ない発電で,CO2を発生せず,太陽光や風力のように発電量が大きく変動せず使いやすい発電ができる可能性が大きいと期待されています。


2.CerebrasがAIシステムを脳のサイズまで拡張

  2021年8月24日のEE Timesが,CerebrasがHot Chips 33に於いて,AIシステムを脳のサイズまで拡張したと報じています。

  CerebrasはHot Chips 33で,MemoryXとSwarmXという箱を発表しました。SwarmXは最大192台のCS-2を接続することができ,MemoryXは重みのメモリを持ち,受け取った傾きを総合する計算を行います。。

  CS-2はSwarmXから重みを受け取って傾き(Gradients)を計算します。SwarmXは全部のCS-2から傾きを受け取り,それをまとめてMemoryXに送ります。MemoryXは全ての傾きをまとめて重みを更新して,次回の計算に使う重みをSwarmXを通して全ノードに送ります。

  つまり,SwarmXは重みと傾きを運ぶだけでなく,傾きの集約や更新した重みの伝達を行います。また,MemoryXは重みを記憶するメモリを持ち,傾きを総合する計算を行い重みの更新計算を行います。なお,MemoryXのメモリはDRAMとFlashの合計で2.4PBの容量があり,120T個のパラメタを記憶できます。

  重みがゼロという固定のSparsityを扱うのは簡単ですが,入力の値を読んでみて値がゼロの場合は計算をスキップするというダイナミックなSparsityに対応するのは大変です。しかし,Cerebrasの計算エンジンは入力値がゼロであるかどうかをハードウェアで検査し,ゼロの場合は積の計算を飛ばして出力をゼロにするようになっています。このため,Sparseな入力に容易に対応できます。

  ネットワークが巨大になるとダイナミックに入力がゼロになるケースが増加するので,ランダムに発生するゼロに対して計算を飛ばせるのは計算量の削減に効果が大きいとのことです。


3.Esperantoが1088コアのRISC-Vプロセサで低電力AIアクセラレータを開発

  2021年8月24日のEE Timesが,Esperantoがステルスモードから出てきて,HC-33で,低電力のRISC-Vメニ―コアチップを発表しました。Esperantoはデータセンタでの処理はリコメンデーションになると考え,ET-SoC-1と呼ぶRISC-Vアーキテクチャのメニ―コアチップを開発しました。

  ET-SoC-1は1088 Minionコアを集積していますが,消費電力は20Wと小さく6チップを搭載したGlacier Pointボードの消費電力は120WとGPUボードより少ない電力で動作します。

  そして,リコメンデーションの顧客と仕様をつめて,6個のチップで100BのSRAMを搭載し,ActivationとWeightを格納する100GBのDRAMを搭載しています。

  このような低電力は低電圧で動作するロジックで実現されています。通常のロジックは0.4V程度で動作させており,0.8V程度の普通のロジックの1/4程度の電力で動作しています。それでも1GHz程度の動作は可能だそうです。

  これに加えて消費電力を節約するロジックを作っています。例えば,1回のベクトルアクセスで512bitをアクセスすれば,1回のメモリアクセスで64bitのデータなら8個がアクセスできます。この時,512bit全てのデータが有効利用できれば,データアクセスのアドレス計算やアクセスのロジックの消費電力は1個のデータの場合とかわりません。このように回路の動作レベルで考えてできるだけ無駄な動作を省き,省電力を実現しているとのことです。


4.TSMCがチップの製造費用を最大20%程度値上げか?

  2021年8月26日のThe Registerが,Wall Street Journalの報道をひいて,近日中にTSMCがチップの製造費を最大20%値上げすると報じています。値上げ幅が大きいのは120nmから16nmといったマイクロコントローラや自動車のコントローラなどに使われているプロセスで製造するチップです。

  ハイエンドプロセサや先端のスマートフォンなどに使われる7nmとか5nmというプロセスで製造するものは10%の値上げだそうです。最先端のチップは相対的には安くなりますが,元々が高いので,16nmプロセスのものより安くなることは無いと思います。

  いずれにしても,ハイエンドのスマホ,GPU,データセンターなどはチップの値上げが起こりそうで,ひいては製品の値上げにつながると思われます。


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